ハーメルンの笛吹  [PDF]

「ハーメルンの笛吹」という話をご存知ですか。

 ハーメルンの町の人はネズミが多くて困って
いました。ある日町に一人の男がやってきてお
金をくれればネズミを退治してあげましょう、
と言いました。町の人々は喜んで彼にネズミの
退治をお願いしました。
 男が笛を吹くと不思議なことに、家々からネ
ズミが出てきて、川に飛び込んでみな溺れ死ん
でしまいました。
 けれど町の人々は、金が惜しくなって男に金
を払おうとしませんでした。怒った男は通りに
出て再び笛を吹き始めました。すると今度は家
々から子供たちが出てきて、男について町を出
ていってしまいました。あとにはおとなだけが
残されたのです。      『グリム童話』

 実は、これには大勢の子供たちがヨーロッパ
の町から突然いなくなった歴史上の事件が背景
にあるのです。

 1096〜1270年、聖地エルサレムをイスラム教諸国から
奪還するため十字軍遠征が行われました。しか
し私欲のからんだ遠征がほとんどで目的をはた
せなかったため、1200年頃当時のローマ教皇インノケン

ティウス3世は各地に説教師を派遣し少年少女の兵
員を募るよう命じました。これが少年十字軍と
呼ばれています。

 「それが神の御心である」という言葉を信じ
純真な少年少女たちが喜び勇んで参加しました。
その数二万人近くいたと記録に残っています。
 そして子供たちが故郷に戻ってくることは二
度とありませんでした。その事件が「ハーメル
ンの笛吹」という物語として残っているのです。
当時のこういった事件で子をなくした親たちの
悲しみが童話の形で後世に残っているのです。

 子供たちはそれからどうなったのでしょう。
実は子供たちは海上を輸送されたのですが、船
が難破したり、だまされてエジプトに奴隷に売
られたりして、一人も聖地に到着しなかったと
いうのが悲しい事実なのです。

 キリスト教の歴史は決して平坦な歴史ではあ
りません。幾多の事実がそこにあることを理解
しておきましょう。